長い直線の地下通路には誰もいなかった。
道に沿って片側の壁際にガラスがはめ込まれている。ガラスの向こうの床には、コンパクトにまとまった色々なオブジェクトが並べられていた。
誰かが長い地下通路を通るとき、その人たちは歩きながら横目で床に並べられたオブジェクトのリストを眺める。
ある人に眺められた瞬間、そのオブジェクトは形や色を変える。
その人間の思い込みや偏見、今まで学んできたこと、今の感情や頭に詰まっているそれぞれの認知のバイアスに応じて、オブジェクトの見え方は変化する。
このオブジェクトはそれぞれの人間の頭の中にある認知バイアスを投射するオブジェクトだ。それぞれの人間の認知バイアスを可視化する。
しかし、それらは全部同じものだった。ある人間の特定のバイアスを使って歪ませた像を次に来た人が見ると、それがさらに歪んで、前の人が見えていたのと同じ別の形になる。
オブジェクトは全員が同じものを見ているような形に姿を変えるようにつくられている。
この通路では人の偏見は修正不可能だと考えらえていて、見えているものが同じように見えるようにオブジェクトが形を変えていくのだ。